長崎県長崎市を拠点に内航海運業を営む株式会社藤進は、石材や砂利の海上運搬をはじめ、防波堤建造時の基礎捨石などの工事に従事しています。現在10隻体制で運航し、今後も新造船を就航予定。南は沖縄から北は北海道まで日本全国の海を運航しています。
海上ブロードバンド普及が叫ばれる中、国や関係機関の取り組みが強化されてきましたが、各船舶との通信手段は電話またはファックスがほとんどで、船員は年配者が多いこともあって書類のやりとりはファックスが主流でした。船舶の運航には実にさまざまな書類が必要となります。船員の乗船・下船時に海運局への申請が必要な「雇入・雇止届出書」や「海員名簿」、「出勤簿」や「作業実績表」「KY(危険予知)連絡書」等、船員法に基づく書類から当社独自の管理書類まで種類は多岐にわたり、その枚数は年間約3000枚にも及びます。
ほとんどの書類を船長や船員が手書きで記入しますので、作業量が多いことも悩みでした。また、運航ルートや工事の詳細図面や注意事項が書かれた「配船表」など重要な書類は寄港地や工事現場へ、本社スタッフが直接手渡しに出向くことも頻繁にあります。移動時間がかかる上、天候などの状況により運航日時が読めないこともあり、本社と船舶間の書類の受け渡しや管理は課題でした。
また船員の確保は海運業全体の課題でもありますが、船員の求人の際に問い合わせが多いのが、船舶のWi-Fi環境の有無です。当社では2021年の新造船からWi-Fiを導入し始めたという状況で、まだまだWi-Fi環境は整っていませんでした。こうした通信環境の整備は人員確保の面でも重要事項でありました。
こうした状況を踏まえ、IT導入支援事業者の富士フィルムビジネスイノベーションジャパンコンソーシアムを介して導入したのは、各船舶専用の「ノートPC」とMicrosoftのサブスクリプションサービス「Office 365」、そして全国各地の取引先の名刺管理ができるクラウド型名刺管理システム「ApeosPlus Cards R」です。
導入のきっかけは1年ほど前に本社オフィスのリニューアルに伴い、IT導入支援事業者が提案する「文書管理アプリ付き複合機」を新規導入したことでした。船内と本社間の通信環境や業務効率化について同社に相談したところ、IT導入補助金についての紹介があり、その制度を活用して当社の現状と複合機に合った通信端末とITツールの導入、そしてGoogleドライブを活用したクラウド型業務フロー構築の提案があったのです。
補助金の申請書類や導入後の報告書の書き方などは非常に煩雑で大変でしたが、IT導入支援事業者のバックアップがあり、比較的にスムーズに申請することができました。実際のITツール導入に際しては、船舶へのWi-fi導入を進めながら、Googleドライブ上でOffice365を使って直接事務処理を行えるような業務フローを構築しました。船長はノートPCを使うのが初めてのため、船舶まで出向いて直接利用方法を指導したり、PCに慣れている船員に協力してもらったり、運用までの準備期間は大変でしたが現在では問題なく業務を行えるようになっています。
非対面による感染予防と業務効率化を同時に進めることで、船内の労働環境は大きく改善されました。
紙ベースの書類を手渡しやファックスでやりとりしていた頃と比べると、クラウド上のデータにOffice365で直接入力できるようになり、書類の作成作業や受け渡しがリアルタイムにできるようになりました。船長や船員にとって記入の手間や時間を大幅に軽減できたのと同時に、本社の管理者としても全国どこからでも現時点の実績や状況をリアルタイムに確認できるようになり、作業量も約5割削減できました。従来は、半月から1か月分の書類をまとめてファックスしてもらっていましたから、スピード感が全然違います。
また、以前は10隻の船舶それぞれから書類が届くため、出張から戻ると書類が山積みの状態でしたが、現在はクラウド上でデータ共有できるのでペーパーレス化も実現できました。「KY(危険予知)点検」の書類だけは今もファックス受信ですが、新しく導入した複合機では受信したファックスをデータ保存できるため、これも紙の保管は不要になりました。導入前は週に50枚程度、年間3000枚ほどの書類をファイル保管していましたが、約9割もの書類削減に成功しました。紙と違ってデータはハードディスクに保存できるので保管スペースもとてもコンパクトです。
共有できるようになったのは、日々の業務連絡だけではありません。営業情報や経営計画なども共有したいと考え、本社と営業所、船舶間をつないでリモート会議を行い、事業報告と今後の目標共有を行いました。今後この通信環境を活用して、従来対面で行なってきた安全教育についても、オンラインで複数船舶に対して同時開催するなど、さらなる効率化を図っていく予定です。
Wi-fi環境が整ったことで若い船員たちも喜んでくれていますし、船内での必要品注文もインターネットで自主的に調べてもらえるようになり、環境的にも時間的にもゆとりができたことで働き方改革にもつながっています。海運業の課題でもある船員確保のためにも、船内の労働環境の向上にもますます力を注いでいきたいですね。
今後は、船舶に監視カメラを設置してネットワークでつなぎ、積荷の品質管理を徹底させて取引先様の信頼度アップを図るとともに、安全管理面でも万が一の事故発生時の原因究明にも役立てていきたいと思います。さらには、これらの取り組みを外航海運業の方にも展開し、事業の拡大と企業のグローバル化を推進していきたいと考えています。私ども海運業の社会的使命は「物流を止めないこと」。安定的な事業の継続に必要な施策を実施すると同時に、全従業員の安全確保に最大限配慮し、新型コロナウイルスとの共存を前提とした取り組みを今後も続けてまいります。
船舶業界は海上という特殊な環境だけに時代から取り残されている現状がありましたが、IT導入補助金という心強いサポートのおかげで新たな業務フローの構築と福利厚生にもつながる労働環境整備を実現することができました。足踏みしている企業の方には、補助金の活用をおすすめしたいですね。
そして今回のITツール導入をきっかけに、さまざまな補助金についてアンテナを張って調べるようになりました。今後も自社に適したサポートがあれば、さらなる業務改善のためにもぜひ活用してみたいと思います。
会社名 | 株式会社藤進 |
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URL | https://www.toshinco.com/ |
住所 | 長崎県長崎市竹の久保町20番9号 |
従業員数 | 46名 |
事業内容 | 内航海運業 / 船舶貸渡業 / 船員派遣事業 / 産業廃棄物収集運搬 / 石材、砕石、砂販売 / 一般建設業 |
従業員数 | 46名 |